日本無視の「朴槿恵外交」に韓国でもいらだち 国際的な孤立自覚か
【ソウル=黒田勝弘】
韓国では朴槿恵(パク・クネ)政権が2月にスタートして以来、いまだ日韓首脳会談が開かれないことに、いらだちが出始めている。朴大統領は今週末から英仏などヨーロッパ訪問に出かけるが、これまで国際会議への出席も含め、米中露や東南アジアはすでに訪問しており、日本だけを避けている感じだ。
日本を“無視”するような朴槿恵外交に主要メディアや知日派の間では不安と不満が出ている。朴大統領に対し「被害者意識からの脱皮」(朝鮮日報)や「嫌いな人とも対話」「冷静で理性的な国益計算」(中央日報)を求め、「首脳会談で両国間の葛藤を克服すべきだ」(同)として「朴大統領の決断がカギ」(東亜日報)としている。
また安倍晋三首相をはじめ日本側がしきりに会談を呼びかけているのに対し、朴大統領がこれを拒否しているという図式に「外交当局者も負担を感じている」(外交筋)といい、「米国をはじめ国際的にもクビをかしげる向きが多い」(同)という。
朴大統領が安倍首相との首脳会談になかなか腰を上げない背景には、安倍首相に対し「右傾化」とか「軍国主義復活」などと非難を続ける韓国内の世論がある。就任以来、日本に対し「正しい歴史認識」を要求してきた手前、雰囲気がよくないというわけだ。
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韓国の朴槿恵大統領は9月7日から5日間、ベトナムを訪れた。滞在中、大統領の口からは、ベトナム戦争中に南ベトナムに派兵された、約30万人の韓国兵が犯した婦女暴行や住民虐殺への謝罪は一切なかった。この点に日本政府が何らかのコメントをすることが、中長期的な日韓関係の改善に役立つのではないだろうか。
≪「過去を直視せよ」は偽善か≫
朴大統領は就任以来、日本に対し「過去を直視せよ」と迫り、安倍晋三首相との首脳会談も拒否している。例えば、8月15日の光復節の演説でも、「過去を直視する勇気と相手の痛みに対する配慮がなければ未来を開く信頼を重ねていくことは厳しい」と述べた。だが、韓国兵に暴行されたベトナム人女性や虐殺されたベトナム人遺族に、「過去を直視する勇気と相手の痛みに対する配慮」を示すことはなかったのである。
日本からすれば、「日本には、『過去を直視せよ』『相手の痛みに配慮せよ』と鋭く要求しておいて、自国のことになると、知らぬ顔をしているのは偽善的ではないか」ということになる。
韓国は中国と同様、歴史問題を政治目的に利用してきた。よく韓国や欧米の知識人は、日韓の歴史認識のこじれを独仏間の和解と対比させるが、独仏間は和解への真摯(しんし)な努力をした。
残念ながら、韓国は「従軍慰安婦」を「性奴隷」と決めつけたり、数を故意に膨らませたり、「軍による強制連行」説を捏造(ねつぞう)したり、慰安婦像をあちこちに建てたりして、日本の名誉を傷つけ、日本を貶(おとし)めるのに使っている。独仏関係にはない、この誠実さに欠ける態度が日本側を刺激して、河野談話の修正を求める動きにつながってきた。
この問題に関する韓国の国内事情は実は複雑で、統合進歩党をはじめ左翼政党、左翼労組、左翼教組などが北朝鮮の指示ないしは意向をくんで日韓の亀裂を画策してきたといわれている。この「従北勢力」に韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)という組織があり、慰安婦問題を執拗(しつよう)に掲げて慰安婦像をソウルの日本大使館前に設置したり、慰安婦への補償を要求したりしているとされる。
≪歴史認識を政治利用する韓国≫
韓国政治は明らかに左に振れている。一昨年のソウル市長選では左翼市民運動家の朴元淳氏が当選し、昨年12月の大統領選でも、ソウルは2大野党の民主統合党と統合進歩党を合わせた得票率が与党セヌリ党のそれを上回った。この9月初めには、先の統合進歩党関係者3人が内乱陰謀容疑で国会決議によって逮捕されている。首謀者の李石基容疑者は5月の秘密集会で、有事(北からの指示など)に備えて武器を収集し、石油、通信施設の襲撃準備をすべきことなどを協議していたという。
左翼勢力は強い反日イデオロギーを浸透させようとしており、親日派の朴正煕大統領の娘として朴槿恵大統領には歴史認識問題で日本に譲歩するのは政治的リスクが大きすぎるのであろう。大統領は韓国主要紙が安倍首相につけた、「極右ナショナリスト」のレッテルを修正するようメディアを誘導する意思もないようだ。
歴史体験が異なる国民が歴史認識の相違を簡単に解決できるわけがない。歴史認識は、それぞれの国の愛国心や誇りも絡み、関係国の政府レベルで合意に達するのは極めて困難である。歴史認識の議論は、政府間の協議事項から外して学者やジャーナリストなどの専門家に任せるしかない。
それにより、歴史認識の相違の政治利用を防止できる。9月の初めに韓国国防大学が催したシンポジウムに招かれた折、筆者は歴史認識問題を日韓政府間の協議事項から分離すべきだと提案してみたが、案の定、韓国側からは、パネリストにしろ、会場の出席者にしろ賛同の声はなかった。
≪日韓の政府協議事項から外せ≫
「それは無理だ」とし、「そんな前例があるのか」と質問してきたので、筆者は「前例はある」と言って日米間の歴史認識を説明した。「米国が広島、長崎に投下した原爆は何十万という日本の市民を殺戮(さつりく)した。これを人道的な罪だとする認識と、これ以上の米兵の犠牲を防ぐためには原爆投下によって戦争を終結するしかなかったとする認識があるが、日米はこれを政府間の協議事項とはしなかった。それによって今日強固な日米同盟ができている」と。
独仏、ドイツ-ポーランド、日本と東南アジア諸国の間の和解などが継続しているのも、歴史問題を政府レベルで議論することを封印してきたからである。